遊牧民にとって馬とは何か?家畜であり、家族であり、相棒である理由|チカが語るモンゴルの絆

こんにちは!HorseCampMongoliaで乗馬を教えているチカです。

皆さんは「遊牧民と馬」と聞いて、どんな光景を思い浮かべるでしょうか?

見渡す限りの草原を颯爽と駆ける姿や、映画のようなたくましい遊牧の風景を想像する方が多いかもしれません。

私はモンゴルの大草原で、代々遊牧を営む家庭に生まれ育ちました。物心がついたときから、家のまわりには常に馬がいて、馬の鼻息や蹄の音が生活のBGMでした。

観光で訪れる方から「モンゴルの人にとって、馬ってどんな存在なんですか?」とよく尋ねられます。ひと言で答えるのはとても難しいのですが、馬は私たちにとって「生きるための家畜であり、かけがえのない家族であり、大自然を生き抜く唯一無二の相棒」です。

今回は、教科書には載っていない、遊牧民の暮らしの中で感じる「馬と人の本当のつながり」についてお話しします。

1. 草原を生き抜くための「家畜」としての役割

まず現実的な暮らしの面から見ると、馬は遊牧民の生活を根本から支えてくれる大切な家畜です。

  • 移動と放牧の手足になる
    道のない広大な草原や岩山、泥道を進むとき、どんな車やバイクよりも頼りになるのが馬です。何百頭もの羊やヤギを追って放牧地を移動させるとき、馬の機動力と賢さがなければ遊牧生活は成り立ちません。
  • 命をつなぐ恵み(馬乳酒と馬肉)
    夏になると、母馬からミルクを少し分けてもらい、伝統的な発酵飲料「アイラグ(馬乳酒)」を作ります。ビタミンやミネラルが豊富で、野菜が育ちにくい草原で私たちの健康を守る欠かせない栄養源です。また、マイナス数十度にもなる過酷な冬を越すための貴重な食料としても、馬は命を捧げてくれます。

生きるために必要な恵みを余すところなく分け与えてくれる存在だからこそ、遊牧民は馬に対して深い畏敬の念を持っています。

2. 幼少期から命の温もりを教わる「家族」

モンゴルの遊牧民の子どもたちは、歩き始めるのとほぼ同じくらいの時期から馬と触れ合います。

「鞍に乗る前に、まず馬の背中に直に乗ってバランスを覚える」

「泣き止まない子どもを馬の背に乗せると、揺れが心地よくてスヤスヤ眠ってしまう」

私の家でもそうでした。親が忙しく働いている間、馬は子守りのようにそばにいてくれました。冬の厳しい寒さの朝、凍える手で馬の首元に抱きつくと、驚くほど温かい体温が伝わってきて安心したのを今でも鮮明に覚えています。

馬は決して檻の中に閉じ込められるペットではありません。一年中、厳しい自然の中で自由に放牧されているため、同じ屋根の下で暮らしているわけではありませんが、この広大な大地でひとつの大きな家族のように共に息づいているのです。

2歳のチカ

3. 言葉を超えて命を預け合う「相棒(パートナー)」

そして何より、馬は遊牧民にとって「背中を預け合える最高の相棒」です。

モンゴルの馬は、人が手綱を力任せに引いたから動くのではありません。乗り手の声の調子、身体の重心のわずかな変化、そして「心の迷い」を驚くほど正確に感じ取ります。

  • 嵐や吹雪の中で道を見つけるのは馬
    視界がゼロになる猛烈な砂嵐や雪嵐に巻き込まれたとき、遊牧民は無理に手綱を引かず、馬に進行方向を任せることがあります。馬は自分の記憶と風の匂いで、確実に家のある方向へと歩みを進めてくれるからです。
  • 「乗せる」のではなく「合図を交わし合う」
    遊牧民は馬を道具のように支配しようとはしません。「チュ!」というひと声で走り出し、手綱を少し引くだけでこちらの意図を察して止まる。力ではなく、信頼関係があるからこそ、あの自由な騎乗が生まれます。

お互いに無理強いをせず、対等な生き物として尊重し合う。だからこそ、遊牧民と馬の間には、言葉のない深い友情が芽生えるのです。

【Q&A】遊牧民と馬に関するよくある質問

Q. モンゴルの馬はすべて野生なのですか?

A. いいえ、遊牧民が飼っている馬はすべて家畜です。ただし、日本の厩舎のように四方を柵で囲って飼うのではなく、広大な草原に放牧して自由に草を食べさせているため、半野生に近い強い生命力と本能を持っています。

Q. 馬に名前はついているのですか?

A. 人間のような名前をつけることは少なく、多くは「ツァガーン(白)」「ゼール(栗毛)」など毛色や身体の特徴で呼ばれます。名前で縛らなくても、一頭一頭の性格や歩き方の癖を家族全員がしっかり把握しています。

ツアーで出会う馬たちも、生きているパートナー

HorseCampMongoliaでお客様をお乗せしている馬たちも、もとはこうした遊牧民の暮らしの中で育ち、人と心を通わせてきた馬たちです。

観光地のアトラクションとして用意された乗り物ではなく、感情があり、その日の気分があり、あなたをじっと見つめている「ひとつの命」です。

ツアーで馬の背中に乗ったときは、ぜひその力強い背中の温もりや、風を切る息づかいを感じてみてください。ただ馬に乗るだけでなく、モンゴルの遊牧民が何千年も受け継いできた「馬とともに生きる心地よさ」を、きっと肌で実感していただけるはずです!

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